生命力──あるオフィスの胡蝶蘭

今年の梅雨は長かった。やっと明けたと喜んでいたら猛暑がやって来て、あっという間にお盆が過ぎ、心身ともにどこへも行けなかった2020年 東京の夏が終わろうとしている。

梅雨の時期のある日、私は半蔵門のとあるオフィスで胡蝶蘭と向き合っていた。

胡蝶蘭は熱帯原産で日本では育てるのが難しい花だと思われているが、水やりと置く場所さえ間違えなければ、毎年花が咲き、50年以上も生きるのだそうだ。

あの優雅で繊細なフォルムとは裏腹に、じつは強靭な生命力を持つ胡蝶蘭。

それを物語るかのようにその胡蝶蘭は植木鉢から力強く根がはみ出ていた。こんな胡蝶蘭はこれまで見たことがなく、それは私にとってある種の衝撃だった。本来、胡蝶蘭は木の上に着床し自生している植物であり、そもそもがおとなしく植木鉢に収まっているようなタイプではないのである。

しだれた枝に連なる純白の花弁の美しさに秘めた、商品として届いたばかりの鉢植えには見えない生命の強さ。私はこの胡蝶蘭にすっかり魅了されてしまった。

(胡蝶蘭にストレスを与えないよう、写っている根っこは鉢からはみ出ているまま使用。
撮影テクニックにより、鉢は消えて見えるが背景の黒布にうまく溶け込ますことができた。)

そこは都心のオフィスで、熱帯雨林のジャングルではないが、オフィスに置いてあった他の植物と合体させジャングル感を演出してみた。

つかの間でも胡蝶蘭は故郷に帰った気分になってくれただろうか…

その頃、長く続く梅雨とコロナ禍で人間界は若干弱りかけていたように思う。

だからなのか、よけいに胡蝶蘭の生命力を感じ、改めて自分が弱っていることに気づかされたのだった。

間違いなくこの胡蝶蘭は気(エネルギー)を出していた。

生命力とは気だと思う。元気の“気”だ。

胡蝶蘭は空気も好きで、空気が循環されている場所を好むらしい。人間と一緒だ。

マスク、マスクのご時世で、息苦しい昨今。今更ながらではあるが、ウィルスに打ち克つ生命力を補うには食事はもちろんの事、良い空気を身体の隅々まで行きわたらせることが大事なのだと思うようになった。

そこで最近は、疲れた時は五分間だけでも自己流で座禅を組んで呼吸を整えてみることにしている。たった五分なので、無念無想の境地に入るまでには至らずとも(笑)、不思議と気分がスッキリし、頭もクリアになる。

コロナ禍の今、家に籠ることが多く、なかなか大自然の空気を思い切り吸えるようなチャンスはないが、せめて部屋の空気を入れ替え、呼吸を整えて、この胡蝶蘭に負けない生命力を養いたいものである。

きっと生まれ故郷のジャングルでは、このように木の幹と枝との分かれ目に跨って
根を下ろして、風に当たっているのだろう。。。